阪神大震災に打ち克った人
感動的な再会がありました。
神戸製鋼に勤め、神戸市に住んでおられました。震災で心身ともに
痛手を負い、しばらく離れておられましたが、親鸞学徒として再び
力強く聞法を始められたのです。
私は、平成4年ごろ神戸にいて、働き盛りの男性にもかかわらず
仕事の合間を縫って聞法するTさんを、素晴らしいなあと
思っていました。
それが、私が異動で神戸を離れてから、1月17日早朝、
あの震度7の大揺れが神戸や淡路島を直撃し、わずか20秒の
揺れで、情緒ある港町が壊滅したのでした。死者6400人、
そのほとんどは、最初の衝撃による圧死といわれています。
「そろそろ起きないと……」とうつらうつらしていたTさんも
飛び起き、マンションも会社も半壊、仮設生活を余儀なくされた
のでした。盗難にも遭われたそうです。
やがて鳥取へ戻られ、14年後の今、再び聞法を始められました。
仏法を聞いていれば、病気にならなかったり、災難が来なく
なったりするのではありません。生身の体を持ち、火宅無常の世界に
住んでいるのですから。
そんな人生の苦難が襲ってきても、それを乗り越えて生きる力は、
「何のために生きるのか」という人生の目的を知るところから
生まれます。震災後、多くの人が孤独死したことを考えると、
この生きる目的を知っていれば……と思わずにおれません。
復興といっても、やがてはまた崩れるものを建てただけです。
心を弘誓の仏地に樹てる真の幸福に向かって歩み始めたTさんこそ、
阪神大震災に打ち克った人でしょう。